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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)7373号 判決 1999年12月09日

原告

新明和リビテック株式会社

右代表者代表取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

岡時寿

明賀英樹

中村良三

黒田一弘

被告

株式会社カリタジャポン

右代表者代表取締役

【B】

右訴訟代理人弁護士

浜田正夫

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

事実及び理由は、別紙「事実及び理由」のとおりであり、それによれば、原告の請求はいずれも理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(平成一一年一〇月一二日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 安永武央)

(別紙) 事実及び理由

第1 請求

1 被告は、原告に対し、金1億0055万8896円及び内金7755万8896円に対しては平成9年7月8日から支払済みまで年6分の割合による金員を、内金2300万円に対しては平成9年8月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 被告は、別紙取引先一覧表記載の各取引先に対し別紙記載の謝罪文を1回発送せよ。

第2 事案の概要

被告は、被告が輸入する化粧品について原告と販売代理店契約を締結していたが、原告が自社の化粧品を開発し、被告の他の代理店等に購入を求めたことから、原告との代理店契約を解除し、商品の供給を停止するとともに、他の被告代理店等に原告の商品開発をめぐる状況についての通知をした。

本件は、原告が被告に対して、<1>被告による契約解除は無効であり、商品供給の停止は代理店契約の債務不履行に当たるとして、それに基づく損害賠償を請求するとともに、<2>他の被告代理店等の通知が不正競争防止法2条1項13号の不正競争行為又は不法行為に当たるとして、それに基づく損害賠償及び謝罪広告を各請求した事案である。

第3 基本的事実関係(争いがない)

1(当事者)

(1) 原告は、理美容関連器具並びに化粧品の製造及び販売等を目的とする会社である。

(2) 被告は、美容器具及び化粧品の製造販売等を目的とする会社である。

2(原告と被告の関係)

(1) 被告は、フランスの化粧品会社カリタ(フランス・カリタ)等との契約により、フランス・カリタの化粧品及びカリタ・エステティック器具その他カリタ全商品の輸入・製造・利用等の全権を有していたが、昭和53年9月18日、原告との間で、被告の輸入にかかるフランス・カリタ・エステティック基礎化粧品の日本国内における販売の権利及び義務を原告に譲渡する契約を締結した(その契約書が乙1)。その後、昭和57年10月1日、同契約をベースとして契約内容が改訂された(その契約書が乙2)。

(2) 昭和60年10月1日、被告と原告は(1)の契約を改訂し、原告が日本国内における販売権を被告に返上するとともに、被告は、フランス・カリタから輸入するカリタ基礎化粧品とその業務用化粧品、カリタメイクアップ化粧品、カリタキャピレール製品とその業務用化粧品について、原告を、日本国内美容ルートにおける唯一の販売元であることを認め、原告に対して同商品を継続して売り渡す旨の契約を締結した(その契約書が乙4)。なお、美容ルートとは、美容室又はエステティック専門店及びこれらに納入する原告の特約販売店への販売ルートのことであり、これとは別に百貨店で販売するルートがあった。

また、同契約書には、原告は、前記の取扱商品と同種又は類似の他社商品についての販売をしてはならない旨の条項(以下、「類似商品販売禁止条項」という。)が明記されていた。

この契約は、昭和63年10月1日に改訂されたが、内容に基本的な変化はなかった(その契約書が乙7の1)。

(3) 平成6年3月25日、原告と被告は、「カリタ化粧品事業転換に関する協定書」(乙8)により、(2)の契約を平成6年3月31日限りで解除し、同年4月1日から被告を日本国内の美容ルートにおける唯一の販売元とする契約を締結し、これに伴い、次の内容の合意をした。

ア 平成6年4月1日から平成9年3月31日までの3年間を移行期間とし、その間、原告は、<1>被告と現販売代理店との調整、<2>売上伝票及び請求書の発行、<3>売上金額の販売代理店からの回収及び被告への支払、の業務を担当する。

イ 被告は、事業転換に際し、原告の既存代理店と新たに販売代理店契約を締結する。

ウ 原告が保有する代理店ルート相当分の在庫品について、被告は、平成6年3月31日までに一括引取りをする(代理店ルートとは、原告が販売元として、サロンとの間に介在する代理店に販売する形態をいう。)。

エ 移行期間中、原告は、代理店ルートからの売上代金を回収し、各月の売上から、平成6年度は売上の5%、平成7年度は同4%、平成8年度は同3%の率の手数料を減じて、被告に支払う。

オ 被告は、原告に、サロンルートでの優遇措置として、平成6年度は上代価格の45%、平成7年度は同47%、平成8年度は同49%の仕切率を適用する(サロンルートとは、直サロンルートともいい、原告が代理店を介在させずに、直接サロンに販売する形態をいう。)。

(4) 原告と被告は、(3)の合意に基づき、平成6年4月1日、次の内容の基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結した(その契約書が甲1)。この基本契約は、平成9年4月1日に、契約の有効期間を平成10年3月31日までとして改訂されたが、基本的な内容に変更はなかった(その契約書が甲2)。

ア 原告は、カリタ化粧品(以下「被告商品」という。)の販売代理店として被告と売買契約を締結するに当たり、カリタブランドのポリシー、イメージ、その美容法の独自性を尊重し、市場のニーズに幅広く応えるため、被告に対して市場動向等の情報の伝達及び提案を行い、被告は原告に対して、積極的な営業活動及びサービスの支援、並びに商品及びマーケティング活動に関する情報を提供するものとする。

イ 被告及び原告は、相互の発展と繁栄を計るため、相協力してカリタブランドの維持と発展に努めるとともに、相互に相手方の立場を理解尊重し、本契約の円滑を期するものとする。

ウ 被告は、同契約の定めるところに従い、被告の商品(カリタ化粧品〔スキンケア、メイク、頭髪、業務用〕及び関連する商品)を継続して原告に売り渡し、原告はこれを買い受けて取扱サロンに販売するものとする。

エ この基本契約では、(2)の契約においては明記されていた類似商品販売禁止条項が明記されなかった。

(5) なお、(2)ないし(4)の期間の原告及び他の代理店に対する被告商品の仕切率の推移は、別紙仕切率推移表記載のとおりである。

3(原告による原告商品の販売と被告による契約解除及び通知行為)

(1) 原告は、平成9年5月20日、東京全日空ホテルにおいて、原告が美容ルート販売元時代の系列代理店を集めて、「新明和リビテック株式会社化粧品代理店大会」を開催し(乙9)、原告の開発にかかる新規エステティック化粧品「AUBRY DECENCE(オーブリー デサース)」を発表し、同商品(以下「原告商品」という。)の営業販売活動を開始した。

(2) これに対し、被告は、翌21日、原告に対し、原告商品の販売を中止するよう申し入れたが、原告はこれを拒絶した。

(3) そこで被告は、同月29日差出にかかる内容証明郵便にて、原告に対し、原告商品の販売は、<1>原告が負っている類似商品取扱禁止義務に違反していること、<2>カリタ化粧品のノウハウを盗用する行為であることを理由に、原告商品の販売の即時中止及び本件基本契約を即時解除する旨の通知を行った(その通知文書が甲3)。

(4) 同日、被告は、

ア カリタ化粧品取扱サロンに対して、「カリタ化粧品のお取引先変更についてのご案内」と題する通知を行い(その通知文書が甲4)、その中で、「突然のご案内ですが、カリタ化粧品のお取引先の新明和リビテック株式会社様とは平成9年5月29日をもって、取引を停止致しました。その為、今後カリタ化粧品のお取引は弊社との直接のお取引をさせて載くようになりましたのでここにご案内申し上げます。」と述べた。

イ 別紙取引先一覧表記載の代理店(原告の取引先の代理店。以下「本件取引先」という。)に対し、「新明和リビテック株式会社取扱化粧品の弊社対応についてのご報告」と題する通知を行い(その通知文書が甲5)、その中で次の旨を述べた。

(ア) 原告商品の販売開始に対し、被告は、原告に対して、<1>原告化粧品及びその販売システムは、カリタ化粧品のそれに類似しており、カリタ取扱サロンへの販売を強く意識して作られていること、<2>原告商品は、取扱サロンがないにもかかわらず、代理店に対してまとめて仕入れさせ、代理店契約の締結を促す行為は、カリタ取扱サロンへの売込みを意図したものと解釈されること、<3>原告が、元カリタ化粧品の総販売元・総代理店の立場を利用し、原告商品をカリタの流通システムに売り込む行為は、被告に対する営業妨害行為であること、を指摘して、抗議と販売中止の申入れを行った。

(イ) 被告は、原告に対し、平成9年5月29日、(ア)の内容の警告と代理店契約の解除を通知し、同時に新商品の出荷差止め及び損害賠償請求を裁判所に提起し、同時にカリタ化粧品の出荷差止手続を行う予定である。

(ウ) 被告としては、「代理店に対し、ほとんどのサロン名簿を保有し、全国に販売網(営業所)を持っている原告が、新化粧品の代理店になって欲しい旨要請することは、半ば、強要しているものと解釈いたします。」

4(原告による発注と契約解除)

(1) 原告は、平成9年6月2日、被告に対し、?スキン外総額569万9405円分のカリタ化粧品の購入を発注した(その発注書が甲6の1ないし3)。

(2) 通常であれば、被告は原告の注文を承諾し、原告が注文した後数日程度で被告の商品が納入されていたが、そのときは、(1)の注文後数日しても、被告は商品を納入しなかった。

(3) そこで、原告は、被告に対し、同年6月11日差出に係る内容証明郵便をもって、同書到達後1週間以内に、本件基本契約に基づき注文商品を供給するよう催告し、同書面は同月13日被告に到達した(甲7の1、2)。

(4) しかし、その後も、被告は、原告に対して注文商品の供給をしなかった。

(5) そこで、原告は、被告に対し、平成9年7月4日差出、同月7日到達に係る内容証明郵便にて、本件基本契約を将来に向かって解除する旨の通知をした(甲8の1、2)。

第4 争点

1 被告による債務不履行の成否

2 被告の前記第3の3(4)ア及びイの各通知は、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知するもの(不正競争防止法2条1項13号)か。

3 被告の前記第3の3(4)ア及びイの各通知が原告に対する不法行為を構成するか。

4 損害額

第5 争点に関する当事者の主張

1 争点1(被告による債務不履行の成否)について

【原告の主張】

(1) 前記第3の4記載のとおり、被告の本件基本契約に基づく商品供給義務違反は明白であり、前記第3の3記載の被告の一連の行為からして、原告としても、もはや被告を信頼して取引を継続することは不可能であると判断した。そこで、原告は、やむなく、本件基本契約を将来に向かって解除したのであり、被告は、債務不履行に基づき、本件基本契約の解除に伴う原告の損害を賠償する責任がある。

(2) 被告は、原告の行為の背信性及び営業妨害性を理由に被告による解除が有効であると主張するが、次のとおり失当である。

ア 本件基本契約の締結に当たり類似商品販売禁止義務条項が削除され、原告は一代理店としての地位だけを有するようになったこと

原告は、本件基本契約を締結する以前、被告商品の総販売元又は販売元として、被告商品の営業販売活動に資本を投下し、被告商品のブランドイメージの定着、イメージアップを図るとともに、販売ルートを新規に多数開拓して、被告商品の販路拡大に努力してきた。原告が一代理店としての地位に転換することは、これらの努力の成果をそっくりそのまま被告に譲り渡すことを意味し、原告において収益減につながることは明らかであった。具体的には、原告は、平成6年3月当時、約15社の代理店及び約600社のサロン(うち500社は同代理店を通じた取引)と取引していたが、本件基本契約によって原告が販売代理店に転換した場合には、これらの代理店及び代理店を通じたサロンとの取引は、すべてそれらと被告との取引となり、原告との取引関係がなくなってしまうことは明らかであった。そこで、原告は、そのための補償を求めるとともに、本件基本契約の締結後は、収益減少に対する対策として、原告の開発・製造にかかる商品の販売活動を行うことも申し出た。その結果、仕切率等において他の代理店よりも有利な定めがなされるとともに、従前は契約書上明記されていた類似商品販売禁止義務が、明記されなくなったのである。したがって、原告が自社商品を販売することは、信義則によって規制されない、営業の自由の範囲に属する。被告が優遇措置と主張するものは、原告が販売元から一代理店としての地位に転換するための代償措置にすぎない。

また、本件基本契約締結に向けての原告と被告の交渉の経緯においても、そもそもこのような義務は議題に上らず、被告が提示した本件基本契約書の原案(甲9の12)にも同義務に関する条項は設けられていなかった。

不正競争防止法や独占禁止法は、規制の対象となる競争秩序を害する行為を明らかにして営業の自由の最大限の確保を図ろうとするものであるから、契約上の特段の合意のない場合に、信義則に基づいて類似商品販売禁止義務を認めることは、それらの趣旨に反する。

イ 被告の主張(2)ア(原告の地位の特殊性)に対する反論

アで指摘したとおり、原告は、本件基本契約締結後は一代理店にすぎず、他の代理店と異なる特殊な信義則上の制約を何ら負う立場にない。被告は、本件基本契約締結後も、仕切率等において原告に優遇措置が採られていると主張するが、アのとおり、それらは原告が販売元から一代理店としての地位に転換するための代償措置にすぎない。

ウ 被告の主張(2)イ(原告商品と被告商品の類似性)に対する反論

(ア) 被告が独自性として主張する点は、いずれも業界において一般的に行われている点であり、被告独自のものではない。

(a) クレンジング、化粧水及びファンデーションの三品目を持たない化粧品メーカーはなく、また、肌別の商品構成とするのは一般的である。

(b) ヒマワリの種子から抽出した成分を配合した化粧品は、ディアンヌ・ドラエーブ化粧品にもある。

(c) 被告のスキンケアシステムも、リンパドレナージュ手技を含め、一般的に行われているものである。

(イ) また、原告商品は、商品名、商品の成分、商品ラベルの表示等の点で明確に異なる(詳細は平成10年2月3日付け原告準備書面添付の表示成分比較表のとおり)。

(ウ) 原告商品は、被告商品と商品品目数が異なり、エステティックメソッドにおいても行程の数、各行程での施術内容は異なる。

エ 被告の主張(2)ウ(原告商品の販売方法)に対する反論

原告商品はサロン向けの商品であり、このような商品を新規に開発・販売しようとした場合、代理店・サロン等に営業販売活動を行うのは当然のことである。

原告は、被告商品とは無関係に、別個独立した新商品として開発し、販売を開始しようとしていただけであり、その営業活動において被告商品をわざわざ取り上げて原告商品の優位性を述べるなどの宣伝は全く行わなかった。そして、原告商品を取り扱うか否かの決定権は、あくまで代理店・サロン等にあるのであって、これらの取引先代理店・サロン等の意思決定を拘束するような営業活動は全く行っていない。

また、原告は、理美容機器の「国内最大メーカー」ではない。原告が大企業として系列会社に圧力をかけ得る地位にあるとの被告の主張は誤りである。

オ まとめ

以上より、原告商品の販売は、一代理店としての営業の自由に属する事項であり、被告に対する背信的行為でもなければ、営業妨害行為でもない。

【被告の主張】

(1) 原告による原告商品の販売は、<1>長年にわたって被告製品の総販売元等の地位にあった原告が、<2>被告商品の販売ルートシステム(エステティックサロン、美容室及び代理店)をそっくりそのまま原告が利用できるように被告製品に類似して構成した商品を、<3>現在も強い影響力を有している総販売元・販売元の時代の系列代理店に対して販売するものであって、信義則に違反する被告に対する背信的行為かつ営業妨害行為である。このように、原告には、本件基本契約を継続することが著しく困難な背信的事情があるので、被告が前記基本的事実関係3(3)で行った契約解除は有効である。したがって、被告が被告商品の供給を停止したことに、何ら債務不履行責任はない。

(2) この点を具体的に述べれば、次のとおりである。

ア 原告の地位の特殊性

原告は、<1>昭和53年10月以降15年余にわたり、被告商品の総販売元又は日本国内における美容ルートの唯一の販売元であり、かつ、<2>平成6年4月1日以降も他の代理店と比較して仕切率等の特別な優遇措置を施されていた。そして、<3>本件基本契約の下においても、原告には、販売代理店として「相協力してカリタブランドの維持と発展に努めること」が規定されている。

原告が被告に対して本件基本契約において仕切率等の特別な優遇措置を施したのは、原告が本件基本契約に基づいて販売代理店となっても、類似商品販売禁止義務が存在すると考えていたからであり、このような特別な優遇措置の反射的効果として、原告には、平成6年4月の本件基本契約締結後も、類似商品販売禁止義務が認められる。

そして、原告は、現在もなお総販売元・販売元の時代の系列代理店に対して強い影響力を有している。

イ 原告商品が被告商品の販売ルートをそっくりそのまま利用できるように構成されていること(原告商品と被告商品の類似性)

(ア) 被告商品及びそのスキンケアシステム(スキンケアメソッド及びエステティックメソッド)は、他の化粧品及びスキンケアシステムには見られない独自性を有する。

スキンケアメソッドについては、他の化粧品及び美容法とは異なり、「クレンジング」、「フリュイド」、「ファンデーション」という単純な3段階の美容法(スリー・ステップ美容法)を基本美容法として、これに1段階(「スペシャル」)を付加した4グループで構成されている点に独自性がある。

特に、フリュイド(美容液)については、肌別に用意された商品を利用するだけで他の化粧水等が不要である点に特徴があり、ファンデーションについては、2層式となっている点及びファンデーションを化粧(メイクアップ)ではなく美容法(スキンケア)の中に含ませている点に独自性がある。

エステティックメソッドについては、12行程から成るが、このうち、第2、3、4、5、6、8及び10行程に独自性がある。

(イ) 原告商品の構成及びそのスキンケアメソッドは、被告と同一である。

(ウ) 原告のエステティックメソッド及びその使用商品は、12の全行程及び使用商品の色調、香り、形状及びテクスチャアーにおいて、被告と同一である。原告商品は、被告商品と同一効果、同一行程のエステティックの売込みを意図して開発されたものといわざるを得ない。

ウ 原告商品の販売態様

原告は、総販売元・販売元の時代の系列代理店に対して、原告商品の取り扱いサロンが皆無な段階で多量に商品の取扱いを要求しており、そのことは、被告商品取扱サロンへの販売を強く意図していたと解釈せざるを得ない。

理美容機器の国内最大メーカーである大企業たる原告の要請は、元系列代理店としては拒絶すること自体困難なことであり、現に、原告商品の取扱いを受諾せざるを得なかった代理店も数社存在しているのであるから、原告の代理店契約締結の要請は、半強要と解釈されてもやむを得ないものである。

エ まとめ

このように、原告による原告商品の販売は、<1>長年にわたって被告商品の総販売元等の地位にあり、特別の優遇措置を受けるとともに系列代理店に対して強い影響力を有している原告が、<2>被告商品の販売ルートシステム(エステティックサロン、美容室及び代理店)をそっくりそのまま原告が利用できるように被告商品に類似して構成した商品を、<3>現在も強い影響力を有している総販売元・販売元の時代の系列代理店に対して販売するものであって、信義則に違反する被告に対する背信的行為であるとともに営業妨害行為である。

したがって、本件基本契約中には原告の類似商品販売禁止条項は定められていないが、このような原告の特殊な地位に鑑みると、原告には、他の代理店と相違して、カリタ化粧品の類似商品販売禁止義務が信義則上認められていると解することができる。

オ 原告の主張に対する反論

原告は、15年余にわたって被告商品の総販売元・販売元であったのであるから、その法的地位を一般の代理店と同列に論じることはできない。

被告は、15年余にわたって被告商品の総販売元・販売元であった原告が、被告商品の販売を阻害する商品を開発・販売するとは到底考えられず、本件基本契約締結の交渉の過程においても、原告の類似商品販売禁止義務は存続するものと考えていた。したがって、同交渉においては、同義務は議題にすら上っていない。

本件基本契約書を作成するに当たって同義務に関する条項がないのは、一般の代理店との契約書(乙25)をそのまま流用したからにすぎない。

被告としては、同義務の存在を前提に、原告の特殊な地位を考慮して、前記第3の2(3)ないし(5)記載の種々の優遇措置を認めたのである。

したがって、本件基本契約締結に至る経緯は、原告商品の販売が信義則に違反することを何ら揺るがすものではない。

2 争点2(被告の各通知は原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知か)

【原告の主張】

(1) 前記第3の3(4)アの通知は、被告による取引停止が不当なものであることを秘匿して、被告が正当に取引停止を行ったかのごとき表現であるから、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知に当たる。

(2) 前記第3の3(4)イの通知については、<1>原告商品及びそのスキンケアシステムが被告商品及びそのスキンケアシステムと類似しているとの点、<2>原告が被告に対する営業妨害行為を行ったとの点、<3>ほとんどのサロン名簿を保有し、全国に販売網(営業所)を持っている原告が、新商品の代理店になって欲しい旨、要請することは、半ば強要しているものと解釈されるとの点はいずれも、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知に当たる。

【被告の主張】

(1) 争点1に関する被告の主張のとおり、被告による本件基本契約の解除は有効であるから、被告の原告に対する取引停止を告知する行為は、何ら虚偽ではなく、また原告の営業上の信用を不当に害するものではない。

(2) 争点1に関する被告の主張で述べた事情からすると、原告による原告商品の販売は、被告に対する営業妨害行為であるから、その旨を告知することは虚偽ではない。

3 争点3(被告の各通知は原告に対する不法行為を構成するか)

【原告の主張】

(1) 被告は、前記第3の3(4)ア及びイの各通知において、何らの正当な理由がないにもかかわらず原告に対するカリタ化粧品の取引停止を通知することにより、本件取引先に対し、原告のカリタ化粧品供給に対する不安を引き起こさせた。

(2) 被告は、前記第3の3(4)イの通知において、原告商品の販売が被告の営業に対する妨害行為であると指摘しているが、原告は、被告商品の販売代理店の一つにすぎないから、被告商品に加えて原告商品の販売をすることは、原告の営業の自由に属する。また、本件取引先が原告の商品を取り扱い、販売するかどうかも本件取引先の営業の自由であり、したがって、原告の新化粧品を取り扱うかどうかも本件取引先に完全に委ねられているものである。

被告は、同通知において原告商品をカリタの流通システムに売り込む行為は被告に対する営業妨害であるとしているが、被告のいうカリタの流通システムとは、化粧品取扱代理店を通じてサロン等へ被告商品を流通させている状態であり、通常の代理店を介しての商品の流通形態を表現を変えて述べただけであって、被告独自の流通システムでないことは明白である。また、原告が従来から開拓してきた販売ルートをどのように使うかは被告が容喙すべき事柄ではない。したがって、被告指摘にかかる原告の行為が被告に対する営業妨害になるということはあり得ない。

このように原告は、何らの根拠もない被告の行為によって、本件取引先への商品供給不安を引き起こされ、また、原告の新商品の営業販売活動を停滞させられて重大な打撃を与えられ、もって原告の信用は著しく毀損されるとともに原告の営業販売活動は著しく妨害された。

(3) 被告は、前記第3の3(4)イの通知において、原告が本件取引先に対し、原告商品の代理店契約締結を強要しているとしているが、前記のとおりこれは虚偽であり、これにより、原告の信用は著しく毀損された。

(4) 以上より、被告の前記基本的事実3(4)アイの通知は、原告に対する不法行為を構成する。

【被告の主張】

原告の原告商品の販売は、本件基本契約に付随する信義則に違反するもので、被告に対する営業妨害である。したがって、前記第3の3(4)イの通知は、被告に対する営業妨害を排除するための正当な行為である。

4 争点4(損害額)

【原告の主張】

(1) 債務不履行に基づく損害について

ア 平成6年度から平成9年6月までの、原告が取り扱った被告商品の業務用及び店販用のそれぞれの売上高、仕入額、仕切率及び販売利益額は別紙計算表のとおりである。

イ 原告は、平成9年度も過去3年度平均と同額の被告商品の売上げを得られたはずであるから、被告の債務不履行による原告の逸失利益は、別紙計算表記載のとおり、8121万1205円である。

ウ 被告は営業費用も控除すべきであると主張するが、原告は契約期間内における被告商品の継続的販売を前提に人員配置等を行って営業費用を支出しており、被告の供給がなくなってもその支出は行っているのであるから、原告の逸失利益を算定するに当たって営業費用を控除する必要はない。

エ 原告は、イのうち7755万0896円の支払を求める。

(2) 不正競争防止法及び不法行為に基づく請求に関する損害

ア 代理店関係取引での原告商品の販売に係る逸失利益について

(ア) 前記第3の3(1)の代理店大会において原告商品を発表した際、出席した4代理店から原告商品初期納入セット(甲17の1、2、甲22)を3単位(合計781万2000円。2,604,600×3=7,812,000)注文を受けたが、前記第3の3(4)の被告の行為により、平成9年9月末ころには、同注文のすべてが取り消された。

(イ) 同じく前記第3の3(1)の代理店大会において原告商品を発表した際、出席した別の5代理店が原告の初期納入セットを合計5.5単位(合計1429万9800円。2,604,600×5.5=14,299,800)注文を行う予定であることを表明していたが、前記第3の3(4)の被告の行為により、それらの代理店からの注文を見合わされた。

(ウ) 原告の初期納入セットは、(ア)及び(イ)の代理店においてはほぼ3か月で完売する見込みであり、その後、少なくとも9か月間は、毎月、同代理店に合計2.5セットを販売することがほぼ確実であった。したがって、その9か月間に、5860万3500円(2,604,600×2.5×9=58,603,500)の売上げが確実であった。

(エ) 原告商品の売上げに対する原告の利益率は51.7%であるから、(ア)ないし(ウ)による原告の逸失利益は、4172万9809円を下らない(〔7,812,000+14,299,800+58,603,500〕×0.517=41,729,809)。

イ サロン関係取引での原告商品の販売に係る逸失利益について

(ア) 原告は、平成9年7月7日に大阪のホテルで、翌8日に東京のホテルでそれぞれサロン関係者に対して原告商品の発表会を行った(甲19、20)が、原告の予想では両者併せて75店・100名のサロン関係者の出席があるはずであったものが、前記第3の3(4)の被告の行為により、両者併せて58店・80名のサロン関係者の出席にとどまった。

原告は、前記第3の3(4)の被告の行為がなければ、それらの58店のうち46店のサロンから原告商品の発注を受けることができたはずであるのに、実際の発注は21店にとどまった。原告は、少なくともこの差の25店に対して、Bコース(単価10万円以上)の販売をすることができたから、原告の得べかりし売上げは250万円(100,000×25)である。

(イ) また、これらのサロンに対する同商品の販売は、3か月当たり1単位、少なくとも更に3か月間の販売が予想されたから、原告の得べかりし売上げは250万円である。

(ウ) サロン関係取引における原告商品の販売による原告の利益率は69.1%であるから、(ア)(イ)による原告の逸失利益は、345万5500円を下回らない(〔2,500,000+2,500,000〕×0.691=3,455,000)。

ウ 無形損害については、300万円が相当である。

エ 原告は、アないしウの合計4818万4809円のうち2000万円を請求する。

【被告の主張】

(1) 債務不履行に基く損害について

ア 別紙計算表記載の原告による被告商品の売上高、仕入額及び仕切率は認める。

イ しかし、原告による被告商品の売上げは平成6年度以降減少傾向にあったものであるから、平成9年度の業務用販売としてはせいぜい4220万3976円の、店舗販売用取引としては1億5898万4160円の売上げが予測されるにすぎない。

ウ また、逸失利益を算定するには、粗利益ではなく、一般費及び販売管理費を控除した純利益によって計算すべきである。

(2) 不正競争防止法及び不法行為に基づく請求に関する損害

ア 原告主張の売上見込みは、都合のよい期待にすぎない。

イ 仮に第3の3(4)記載の文書により原告商品の発注が取り消されたとしても、それは代理店の自由な判断に基づくものである。

第6 争点に対する当裁判所の判断

1 争点1(被告による債務不履行の成否)について

(1) 前記第3記載の事実からすれば、被告は、前記第3の3(3)記載の契約解除が有効でない限り、原告に対し、本件基本契約に基づく被告商品の供給義務(前記第3の2(4)ウ)の債務不履行責任を負うと認められる。

そこで、以下、被告による本件基本契約の解除の有効性について検討する。

(2) この点について被告は、まず、本件基本契約上、原告は類似商品販売禁止義務を負っており、原告による原告商品の発売はこれに違反するものであると主張する。

ア そこで、まず、昭和60年の基本契約(前記第3の2(2))から平成6年の本件基本契約(前記第3の2(3)(4))に契約内容が変更されるに至った経緯について検討するに、後掲各証拠及び甲28、乙35、証人【C】、同【D】の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、これに反する証拠はない。

(ア) 原告は、昭和53年に被告商品の国内における販売権を取得し、昭和60年に国内美容ルートにおける唯一の販売元となっていたが、原告は、各地で既存のサロンの従業員を集めて講習会を行う等の教育や支援を行って、被告商品を取り扱うサロンを開かせたり、既存のサロンに被告商品を取り扱うよう売り込む等の方法によって、被告商品を取扱うサロンを開拓していき、各地域の代理店に、全国に散らばるサロンを管理させてきた。そして、契約内容の変更について被告から提案がなされた平成5年9月の時点では、原告は、各地の代理店を通じて約500のサロンに被告商品を販売するルート(代理店ルート)を有するとともに、代理店を介在させずに直接に約100のサロンに被告商品を販売するルート(直サロンルート)を有しており、原告を介在させずにサロンに被告商品が販売されるルートはなかった。

当時、被告から原告へは、<1>サロン店頭で消費者に販売される商品(店販用商品)については店販価格の42%で販売され、原告はそれを代理店に店販価格の50%で販売する、<2>サロンで使用する商品(業務用商品)については、対サロン販売価格の55%で販売され、原告はそれを代理店に対サロン販売価格の72%で販売するものとされており(乙7の1、別紙「仕切率推移表」)、原告はこれらの差額をマージンとして得ていた。

(イ) ところが、平成5年9月、被告では、被告商品の売上高の減少に直面し、その原因として内外価格差の存在と並行輸入品の存在があると判断したことから、国内流通経費の圧縮のために、原告に対し、国内美容ルートの総販売元の地位から一代理店の地位に変更するよう契約内容変更を申し入れた(乙20、甲9の1)。この内容は、従来の代理店ルートの関係で原告を流通ルートから外し、原告が従来の直サロンルートの関係の一代理店としての地位のみを有するようになることを意味していた。

これに対して原告は、翌10月ころにかけて内部で検討を行い、基本的には避けて通れない道ではあるが、交渉はゆっくり行い、有利な条件を引き出すという方向性を決定し、契約変更のための条件として、他ブランド化粧品の取扱いの自由や他の代理店より有利な仕切率を定めること等を検討した(甲9の1)。

(ウ) 被告からの契約変更の正式な申入れは、同年11月18日に行われた(甲9の3)。これに対し、原告では更に社内で検討を経て(甲9の4)、11月27日に正式の回答をした(甲9の5)。その回答では、被告からの申入れについては検討する用意があるが、その際には原告がこれまで培ってきた流通ルートの開拓に要した投下資本を考慮した上で、営業補償を求めるとともに、数年をかけて一代理店に段階的に移行することや事業転換のための資金調達のための在庫品の一括引取り等を提案した(甲9の5)。

(エ) その後、原被告間で、原告の要求する営業補償の内容等をめぐって交渉が行われ(甲9の6、7、10及び11、乙21、乙22)、平成6年2月18日の時点で、契約変更後3年間を移行期間とし、<1>移行期間中は原告は既存の代理店ルートについてディーラーマージンを有し、初年度5%、2年度4%、3年度3%とし、4年度以降は廃止する、<2>直サロンルートの仕切率は初年度45%、2年度47%、3年度49%とし、4年度以降は他の代理店と同じ50%とするという内容について合意が得られ(乙23)、同年3月9日には、被告から原告に対し、契約書の草案(甲9の12)が示された。

この草案に対して、原告からは若干の修正要求がされ(甲9の13)、同月25日に最終的な協定書(乙8)が成立した。

(オ) また、この協定書に沿って同年4月1日に本件基本契約(甲1)が締結されたが、本件基本契約の契約書は、原告がそれまで代理店と締結していた契約を雛形として被告から提示されたものであった。

なお、前記移行期間の経過後の平成9年4月1日に原被告は協定書を改訂したが、直サロンルートの仕切率を49%とする点だけは維持された。

イ 以上に基づいて検討するに、アで認定したような経緯によって締結された本件基本契約書(甲1。その後の更新に係るものとして甲2)中には、前記第3の2(4)のとおり、従前の契約書(乙4、7)には明確に存在した類似商品販売禁止条項が設けられていないのであるから、特段の事情がない限り、本件基本契約上、原告に類似商品販売禁止義務が課せられていたとはいえない。

被告は、甲1の契約書は、従前に原告が代理店との間で締結していた契約書を雛形として使っただけであり、類似商品販売禁止義務が原告に課せられることは当然の前提であったと主張するが、アで認定したとおり、原告と被告とは相当の期間に協議を重ねて本件基本契約の締結に至ったものである上、本件基本契約の契約書の草案は被告から原告に提示されたものなのであるから、被告の主観的な意図は別として、客観的な契約内容としては、類似商品販売禁止義務は原告に課せられていなかったと解するほかはない。

ウ もっとも、証人【C】は、原告との協議を重ねる過程で、<1>平成5年9月の時点で、【C】から原告担当者の【D】に事業転換として予定する内容について問うたところ、当時から原告が取り扱っていた男性用化粧品(商品シリーズ名「デサース」)の販売拡充を述べただけで、女性化粧品の取扱いについては何も言及がなかった、<2>平成6年1月20日の協議の際に、移行期間が終了する平成9年度以降も競合商品を取り扱わないよう申し入れたところ、原告担当者の【D】は、契約条項には入れることはできないが女性用化粧品は取り扱わない旨返答したと証言し、その際の【C】のメモとして、被告は乙36を提出する。

しかし、<1>の点については、【C】証言によっても、女性用化粧品の取扱いについては【D】から何の言及もなされなかったというにすぎない上、証人【D】によれば、平成5年9月の段階では原告側は事業転換の必要性は強く意識していたものの、その内容として特に具体的な展望を有していたというわけではなかったことが認められ、さらにアで認定したとおり、平成5年10月ころの時点で事業転換の内容として他ブランド商品の取扱いも視野においていた(甲9の1)のであるから、<1>のやりとりをもって類似商品販売禁止の合意がなされたと見ることはできない。また、<2>の点については、平成6年度からの契約変更の協議をしている際中に、3年の移行期間を経過した後の平成9年度以降の話がされたというのは不自然であるし、その際の【C】の手控えとして提出された乙36の記載でも「競合 3年 申し入れNO」とあるにすぎないから、このときに協議されたのは、もっぱら3年間の移行期間中の競合商品の取扱いについてであって、原告側はその提案を拒否した旨の証人【D】の証言の方が合理的である。したがって、<2>の点から、原被告間に類似商品販売禁止義務の合意がなされたと見ることもできない。

エ また被告は、本件基本契約において、原告に対して仕切率等の点で他の代理店に比べて優遇する措置を講じたことの反射的効果として、原告には類似商品販売禁止義務があると主張する。しかし、アで認定した経緯からすれば、本件基本契約において原告に認められた各種の優遇措置は、原告が昭和53年以降にサロン等を開拓し、昭和60年以降も国内美容ルートの総販売元として被告商品取扱いサロンの開拓と管理を行ってきたという既得的地位を放棄する代償として認められたものであることは明らかであり、そのような措置を理由として他の販売代理店とは異なる特別の契約上の義務を負ったものと見ることはできない。しかもその措置の期間も移行期間である3年間に限定され、原告が原告商品の販売を開始した平成9年5月の時点では、仕切率が1%優遇されている点を除いては本件基本契約当初に定められた優遇措置は姿を消しているのであるから、少なくとも原告が原告商品の販売を開始した時点において、原告に優遇措置が認められていたことを理由として、原告に他の販売代理店には課せられない類似商品販売禁止義務が契約上課せられていたということはできない。

オ 以上よりすれば、原被告間で類似商品販売禁止義務の存在を肯定し得る特段の事情も認められないから、原告が契約上の義務として、類似商品販売禁止義務を負っていたということはできない。

(3) しかしながら、本件基本契約のような継続的な代理店契約においては、相互の信頼関係を基礎として継続的な契約関係が形成されているものであるから、当事者間に契約関係を存続させることが著しく困難ならしめる事情があれば、信義則上、将来に向かって契約を解除することができると解するのが相当である。

ア この点について被告は、<1>原告の地位の特殊性、<2>原告商品と被告商品との類似性、<3>原告商品の販売方法の3つの観点から、原告による原告商品の販売は、本件基本契約の継続を著しく困難ならしめる背信的事情が存すると主張するので、検討する。

イ 原告の地位の特殊性について

被告は、この点について、原告が本件基本契約上の優遇措置を受けている点を指摘するが、それが原告に対して何らの特別な契約上の義務を負わせる根拠とならないことは先に述べたとおりである。

しかし、本件基本契約上、原告は被告の販売代理店であって、第3の2(4)のとおり、契約書前文においても、「甲(原告)および乙(被告)は、相互の発展と繁栄を計るため、相協力してカリタブランドの維持と発展に努めるとともに、相互に相手方の立場を理解尊重し、本契約の円滑を期するものとします。」とされている(甲1)。この趣旨に照らせば、原告は、一代理店としてであっても、少なくとも被告の利益を害する利益相反行為を行わないことは、当然の前提とされていると考えられる。

とりわけ、被告商品の流通網における販売代理店の役割は、前記(2)アで認定したとおり、全国に散らばるサロンを管理する点にあり、サロンが被告商品の取扱いを継続するよう努めることが、被告と販売代理店の双方にとって契約上の前提とされているものと考えられる。

ウ 原告商品と被告商品との類似性について

(ア) 販売形態について

乙10、34によれば、被告は、消費者自身による日々のスキンケアとサロンでの定期的なエステティックトリートメントを組み合わせた美容法を提案し、それに基づいた構成の化粧品を販売しているものと認められる。したがって、被告商品の消費者は、サロンにおいてエステティックトリートメントを受けるとともに、同じくサロンにおいて店販用商品を購入して自宅でスキンケアを行うことが主として予定されているといえる。

このような販売形態を予定している点は、原告商品も同様で、エステ・美容ルートでの販売を企図している(乙9、33)。そして、前記第3の3(1)のとおり、原告は、平成9年5月20日に開催した「新明和リビテック株式会社化粧品代理店大会」において、被告の販売代理店を招待し、原告商品を発表した(乙9)。この会の後には、原告に対して原告商品の注文もあった(甲28)。また、原告は、平成9年7月7日に大阪で、同月8日に東京で、被告商品を取り扱うサロンに対しても原告商品の発表会を行い、この発表会には大阪では27店、42名が、東京では31店、38名が出席し、発表会後には注文もなされた(甲19、20、28)。

(イ) スキンケア用化粧品の構成について

(a) 原告商品は、美容室・エステサロンでの販売ルートのみを念頭に置いたものであり、業務用・店販用併せて16種類のものがある(乙9)。その構成は、クレンジング(4種類)、化粧液(3種類)、スペシャルケア(5種類)、ファンデーション(2種類)、業務用専用(2種類)となっている。

このような原告化粧品の構成に対しては、それぞれについて、同じ用途・形態の対応する被告化粧品がある(乙10)。例えば、4種のクレンジングを見ると、原告商品では、<1>ノーマル~オイリー肌向けのクレンジング・ゼリー、<2>ノーマル~敏感肌向けのクレンジング・ローション、<3>ノーマル~乾燥肌向けのクレンジング・ミルク、<4>フキトリ用化粧水(クリア・ローション)の構成であるが、これと同じ構成が被告化粧品にもある(乙10、14)。

そして、このような原告商品を用いて行われるスキンケアの構成は、被告が平成2年ころまで用いていた「2(クレンジング・フリュイド)+1(ファンデーション)」(場合によっては+スペシャル)の構成に則ったものと認められる(乙28、33、34、証人【E】)。

(b) もっとも、原告商品と被告商品とでは、異なる点もある。すなわち、<1>化粧液(フリュイド)については、必ずしも各商品が対象とする肌の類型が一致していない、<2>被告では、平成2年ころから、スキンケアメソッドを、「2+1」から「3+1」の構成に変更しているので、付加された1ステップ(保護のステップと呼ばれる。)用の化粧品については、被告商品には存しても原告商品には存しない、<3>原告商品のうちの1つには対応する被告商品がない(対応する被告商品が平成4年に廃番になったため)、<4>化粧品の成分が異なるという点である(乙10、12、証人【E】、弁論の全趣旨〔原告1998年2月3日付け準備書面添付の表示成分比較表〕)。

しかしながら、他社の化粧品の構成を見ると、<1>資生堂では洗顔・柔軟・保湿・収斂・栄養のステップによる美容法を採用し、<2>エスティローダー社では、クレンズ(洗顔)・リペア(修復)・ナリッシュ(栄養)のステップによる美容法を採用し、<3>ランコム社では、クレンジング(洗顔)・化粧水・美容液・アイトリトメント・デイ&ナイトトリートメントのステップによる美容法を採用し、各社においては、これらの各ステップに対応した構成の化粧品を販売していることが認められる(乙28ないし31)。そして、これらのメーカーの化粧品構成とそれが前提とする美容法は、先に見た被告商品の構成とは異なっている。また、原告が平成7年11月以降に代理店として取り扱っているアクアトナル化粧品について見れば、必ずしもその全体構成は明らかではないが、甲29の4に示されているスキンケアの一例によれば、アクアムース・ローショントニックアージュ・クレームジュールアージュ(夜はクレームニュイアージュ)のコースが示されているが、甲29の3によれば、アクアムースはクレンジングであり、ローショントニックアージュは老化防止用ローションであり、クレームジュールアージュ及びクレームニュイアージュは、いずれも老化防止用クリームであることが認められ、被告のスキンケアの構成との類似性は高くないものと認められる。

また、証人【C】の証言によれば、原告商品に対しては、代理店から同じタイプの化粧品を売り込まれても困るとの意見が被告に寄せられたことが認められる。

(c) このように見ると、原告商品の構成は、平成2年ころの被告商品の構成を基本的に踏襲しているものと評価することが可能であり、前記のような相違点もあるにせよ、他社化粧品と比べると類似性が高いといえる。

(ウ) エステティックメソッドについて

エステティックメソッドの行程については、被告側の構成(乙26、27)と原告側の構成(乙9)とを比較すると同一であり、さらに顔部分のエステティックメソッドについても、被告側(甲14の2)と原告側(甲13)を比較すると、額部分を除き、同一である。さらに、被告では、リンパドレナージュ手技によって、ひまわりの種子を含むレノバトールによるトリートメントがエステの中核に置かれている(乙27、34)が、ひまわりの種子を原料とした化粧品によるトリートメントが中核に置かれている点は原告でも同様である(乙34)。

このように、原告商品が前提としているエステティックメソッドも、被告のものと類似性が高いといえる(証人【F】の証言)。

これに対し原告は、被告のエスティックメソッドも特殊なものであるとはいえないとして、甲12(エステティシャン向けの雑誌「ソワンエステ」の記事)、24(エステティック用語辞典)を挙示するが、甲12と乙27(被告のエスティックメソッドが記載されているパンフレット)を比較すると両者は異なる点も多いことが認められ、証人【F】の証言も併せ考えれば、原告の主張は採用できない。

エ 以上に基づいて検討する。

前記のとおり、他社商品と比べて、原告商品は被告商品と類似性が高いといえるが、被告商品は市場で販売されており、そのスキンケアメソッドやエステティックメソッドも公開されており、また、被告が商品の構成や営業方法について何らかの工業所有権を有しているわけでもないから、販売代理店という関係を離れて見た場合には、原告が被告商品と類似性の高い商品を企画・販売したからといって、直ちに違法とはいえないし、また、そのような商品を被告の販売代理店や取扱サロンに売り込むことも、原告の営業の自由に属する事柄であって、直ちに被告に対する営業妨害を構成するわけではない。

しかし、前記のような販売代理店としての原告の地位に照らせば、被告商品と類似性の高い原告商品を自ら企画・開発し、被告の販売代理店や取扱サロンに対して売り込む行為は、被告に対する直接の利益相反行為であると認めるのが相当である。

なるほど、被告の販売代理店は、類似商品販売禁止義務を負っておらず、販売代理店が複数のメーカーの商品を取り扱うことも多いが、これは、顧客の多様なニーズに応える必要があるからである(証人【D】及び同【F】)。したがって、販売代理店が複数のメーカーの商品を取り扱ったとしても、メーカーと被告が直接的な競合関係に立つことはあっても、被告と販売代理店とが直接的な競合関係に立つことはない。

しかし、原告は被告の販売代理店という地位にあるにもかかわらず、被告商品と類似性の高い原告商品を自ら企画・開発し、被告の販売代理店や取扱サロンに対して売り込んだのである。このことは、原告の売込みの結果、被告の販売代理店や取扱サロンが原告商品を取り扱う場合には、類似性の高い被告商品の取扱量はそれだけ減少するという関係に立つことを意味する(このことは証人【D】自身も認めるところである。)。すなわち、原告は、被告の販売代理店として活動する一方で、自らが被告と直接的な競合関係に立ち、被告の利益を害する行為を行ったものと解される。そして、前記のとおり、被告の販売代理店は、全国に散在するサロンを管理し、サロンが被告商品の取扱いを継続するよう努めることが、被告と販売代理店の双方にとって契約上の前提とされているものと考えられる。

これらからすれば、原告が原告商品を被告の販売代理店や取扱サロンに対して売り込む行為は、単に原告が被告商品と類似商品を販売したというにとどまらず、被告の利益を直接侵害する行為であって、被告に対する利益相反行為に当たるというべきである。しかも、原告は、被告の販売代理店やサロンに対して幅広く営業活動を行っているから、利益相反の程度も重大であるといえる。

したがって、原告のこのような行為は、信義則上、被告に対して、原告との間の販売代理店契約の継続を著しく困難ならしめる事情に当たるというべきである。

この点について原告は、類似商品販売禁止義務は、原告の営業の自由に対する制約であるから、契約に明示されない限り安易に認めるべきではないと主張する。しかし、上記のとおり、原告の行為は、単なる類似商品販売の域を超え、被告の代理店として活動する一方で自らが原告商品を開発、販売することにより被告と直接的な競合関係に立つことを意味するから、被告に対する利益相反行為といえるのであり、その程度も重大であるから、契約関係の解消を被告に認めたからといって、原告の営業の自由を不当に制約するとはいえない。

また、原告は、被告の販売代理店や取扱サロンは、もともと原告が開拓した取引先である点を指摘するが、そのような原告の功績は、本件基本契約の締結時において各種の優遇措置(補償措置)を講じることによって、被告との間では清算されたというべきであるから、それらの者を原告が開拓したことを理由に、原告の売り込みについて被告が異議を唱えることができないということはできない。

さらに原告は、アクアトナル化粧品の代理店となったときには、被告は何ら異議を唱えなかったと主張し、証人【D】の証言でもその事実は認められる。しかし、前記のとおり、アクアトナル化粧品は、被告商品との類似性が高くないから、原告商品を自ら企画・販売する行為と同列に論じることはできない。

(4) 以上より、被告による契約解除は、契約関係を継続することが著しく困難な事情に基づくものということができ、有効なものと認めるのが相当である。したがって被告に本件基本契約の債務不履行は認められない。

2 争点2(被告による不正競争行為の有無)及び争点3(被告による不法行為の有無)について

(1) 本件における原告の行為は、要するに、自社開発の化粧品を被告商品の流通ルートにある販売代理店や取扱サロンに売り込もうとした行為であるが、先にも述べたとおり、このような行為は、販売代理店契約の関係を離れて、一般的な競争関係として見る限り、正当な競争行為であるといえる。しかし他方、被告が原告の行為に対して、自らの顧客と流通ルートを維持するために、販売代理店や取扱サロンに対して原告商品を取り扱わないよう要請するのも、一般的には正当な競争行為であり、ただその要請を行う際に、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知する場合には不正競争行為として違法となり、また、販売代理店等に対して不当な圧力をかける行為を行った等の場合も不法行為として違法との評価を受けることがあるというべきである。

そこで、原告は、甲4及び5の文書を被告が配布したことが、不正競争行為又は不法行為を構成すると主張するので、以下、この点について検討する。

(2) 甲4について

甲4は、被告から取扱サロンに対して配布された文書であり、その内容は前記第3の3(4)アのとおりであるが、そこでは、被告が原告との取引を停止したこととそれに伴う今後の取引方法の通知がサロンに対してなされているにすぎない。そして、被告による契約解除が有効であることは先に述べたとおりであるから、甲4の文書の内容に虚偽の点はなく、また、他に違法性を基礎付ける要素も認められない。したがって、被告が甲4の文書を配布したことが不正競争行為又は不法行為を構成するとはいえない。

(3) 甲5について

甲5は、被告から販売代理店に対して配布された文書であり、その内容は、前記第3の3(4)イ記載のとおりである。そして、<1>原告商品が被告商品と類似していることは前記のとおりであるから、この点の記載について虚偽はなく、<2>原告商品の販売が被告に対する背信的な行為と評価し得ることも前記のとおりであるから、原告商品の販売が被告に対する営業妨害行為であるとの記載も実質的には虚偽とはいえない。また、<3>被告による解除は前記のとおり有効であるから、被告が原告に対して被告商品の出荷を停止した旨も虚偽ではない。さらに、<4>原告は販売代理店に契約締結を半ば強要していると解釈する旨の記載は、必ずしも事実に即しているわけではないとしても、背信的行為を受けた被告が、自己の解釈として、「半ば、強要しているものと解釈いたします」と述べているにすぎず、読み手たる販売代理店(その中には原告から直接に勧誘を受けた者も多い)に対して、原告が真に契約締結を強要しているとの印象を抱かせるとは考えられないから、実質的に見れば、虚偽の事実を告知するものとはいえない。そして、他に甲5の記載内容に違法性を基礎付ける部分も見出せない。

したがって、甲5の文書の配布が不正競争行為又は不法行為を構成するとは認められない。

(4) 以上によれば、被告は、原告に対し、不正競争防止法又は不法行為による損害賠償責任を負わない。

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